交通事故で治療を行った場合、被害者の方であれば治療費は自賠責保険を使うというのが基本的な流れになります。
しかし…
交通事故で来る患者さんすべてが“被害者”といわけではありません。
もし、加害者の人が受診にきたら?
もし、自損事故の人が受診にきたら?

結論としては、被害者で自賠責を使わない事故の場合以外は健康保険証を利用しての請求になります。
本記事は、現場の医療事務向て交通事故で第三者を使用する場合の対応についてまとめています。
自賠責を使わないとき、加害者が受診したとき、自損事故の時の対応についてそれぞれ詳しく書いていきます。
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加害者が受診した場合の医療機関の対応
加害者が受診した場合は、通常の患者さんと同じように保険証を使っての保険診療になることがほとんどです。
加害者の場合は第三者行為手続きをする必要があります。
協会けんぽの資料の中にも記載がありました。
引用元:全国健康保険協会 千葉支部
過失の割合とかもあるので一応は保険者へ報告をしてもらう
上記の引用にもあるように、事故で保険証を使用してもよいかの判断をするのは保険者なので、一応は患者さんへ保険者(保険証を発行しているところ)に
「事故で保険証を使用します。」
という連絡をしてもらいます。
もし、ここで保険者が第三者扱いと判断すれば第三者届けを提出する必要があります。
注意ポイント
加害者となっていても、過失の割合で7:3とか完全な加害者というわけではない場合もある。
そうなると、第三者届けを提出するケースもあるようです。
そこで、第三者扱いになったときには患者さんから、病院側へも連絡してもらうようにお願いしておきます。

とりあえず第三者の特記をつけておく
加害者の場合、第三者として正しいのは上記のような取り扱いになります。
ただ…
過失の割合とか、患者が保険者に届出をだしたのか確認するのは正直面倒です…
なので…
ポイント
とりあえず患者さんには第三者届け出を出すように促しておいて、医療機関側も第三者の特記をつけておく。
という手段もあります。

第三者の特記をつけるのは、レセプト請求上では義務にはなっています。(下記参照)
国民健康保険法施行規則第32条の6及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第46条、介護保険法施行規則第33条の2の規定に基づき、保険給付及び介護保険給付等の事由が第三者の行為によって生じたものであるときは、被保険者は、直ちに保険者等へ「第三者行為による傷病届」により届け出を行うことが義務付けられています。
しかし、半分以上は医療機関側のサービス的な部分でもあります。
なので、なかったとしても「この患者は事故なのでは?」と問合せがくるぐらいです。

自損事故をおこした人が受診した場合の医療機関の対応
基本的な対応しては
- 流れとしては加害者が受診した時と同じ対応
- 第三者として請求する相手がいないので、第三者届けを提出する必要はない
対応と流れについては、加害者が受診したときと同じ流れになります。
考え方としては
スポーツなど、自分の趣味でやっていたことに対し、その中の不注意でケガをしてしまった場合は保険証を使用しますよね?
そういった受診と同じです。
※ザックリとした説明なので、あくまで考え方の一つとして覚えておいてくださいね。
【体験談】保険者から問い合わせがくることもある
私自身の体験として、保険証が国保の方で自損事故で受診した患者さんがいました。
このとき、特記をつけずにレセプトを請求しました。
後日、市役所(保険者)から問い合わせがあり、
「本人(患者)から事故で受診した」と聞いたのですが…
といわれました。
役場の方に事情を説明し、納得されたようだったのでついでに
『自損事故でも届けでをしたほうがよいか?』と質問してみると
役場の人⇒『届け出時に状況確認などできるので、できれば事故の報告を促してもらってかまいません』的な返事が返ってきました。
おそらくここで、第三者になるかどうか判断するのでしょう。
一部負担金の取り扱いは窓口徴収です
ここからは、意外と知らない病院もあるかもしれない部分になってきます。
事故で第三者請求(被害者)する場合、窓口負担は原則、患者本人からの徴収になります。
しかし…
交通事故で患者さんが受診した場合、診療代に対して保険会社が医療機関側に直接連絡をしてくる場合が多々あります。
連絡の内容としては
『交通事故で受診する患者さんの治療費は、保険証を使っての保険診療でお願いします。治療費の一部負担金(1割or3割)は保険会社が負担しますので患者さんへは請求しないで、保険会社へ直接請求してください。』
というような内容です。
このように言ってくる理由としては、
患者本人が加入している任意保険の中に「人身傷害保険」というものがあります。その補償をうけるためです。
なにも知らなければ当然、言われたように請求すると思います。
しかし…
健康保険法(大正11年4月22日法律第70号)
(一部負担金)
第74条 第63条第3項の規定により保険医療機関又は保険薬局から療養の給付を受けるも者は、その給付を受ける際に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該給付につき第76条第2項又は第3項の規定により算定した額に当該各号に定める割合を乗じて得た額を、一部負担金として、当該保険医療機関又は保険薬局に支払わなければならない。
により『一部負担金の窓口支払いは、保険給付の要件』
つまり、保険証を使い保険診療を受ける場合は、事故の被害者にかかわらず、窓口で支払いをしなければいけないということです。
あくまで保険証を使って治療するということは、社会的資源・保険証の制度を利用して治療を行うということです。
なので、それを使うということはある程度の決まり事、制約に従わなければいけないということです。
制度の指示に従えないなら自費で支払ってくださいって感じです。
加害者や自損事故患者が保険証を使用して治療を受ける際の注意点
交通事故で保険証(第三者)を使う治療費の請求は、通常の患者さんと同じような対応になるので届出を出す以外は医療機関の対応としてはそこまで変わったことをする事はありません。
しかし、注意するべき事は何点かあるのでまとめてみました。
①:治療の制限が多い
保険証を利用して治療するということは、上記の一部負担金を含めいろいろなの制限を了承したうえで行っていくということになります。
保険診療としての取り扱いになりますので、保険請求の規則に則りリハビリの回数だったり、シップの処方とかも制限がかかってきます。
患者さんは、これらの事をあまり理解せずに保険証を利用しているパターンが多いです。
注意
本来は、患者さん自身が保険証を使用するか決定をするというのが基本的な考え方だが、ほとんどの場合は保険会社の誘導によって保険証を使用していることが多いです。
もし、こういった制限が嫌ということであれば、自由診療という選択になってくると思います。
②:診断書と診療明細書の発行は基本的に患者さんからの依頼
保険会社が診療報酬明細書・診断書を依頼してきたとしても、保険証を使用する限り保険会社は医療機関と患者の間に治療に関与する権限はありません。
保険証を使用するということは、病院と患者さんとの医療契約になります
。
つまり、保険会社は医療機関と患者の間の治療に関しては部外者という立ち位置になります。
保険証使用する場合は、保険会社が医療機関に診断書や診療明細書などを依頼してきても発行する義務はありません。
ですので、自賠責の時のように毎月、診断書と診療明細書を発行するということも不要になります。
あくまで、患者と病院での間の関係になりますので、自賠一括のように保険会社は介入するという概念がなくなります。
注意ポイント
ただし、診断書も診療報酬明細書も患者本人からの依頼があれば作成することは可能です。
この取り扱いとしては、普通の健保請求してる患者と同じ取り扱いになります。
個人情報の兼ね合いもありますし、病院によって対応が異なってくる事もあると思います。
医療事務の実務では診断書・明細書を発行する場合がほとんど
上記で診断書、明細書は患者本人と医療機関とのやりとりになり、保険会社は関与できないと書きましたが実務では上手くはいかないのが現状です。
多くのケースは、保険会社が『診断書、明細書を毎月だしてください。』って言ってきます。
そういった場合は、それぞの医療機関での対応方法で作成するかしないか決めてかまわないと思います。

経験上、特に問題も起きていないので、第三者で診断書と明細書を保険会社へ直接発行しても大きな問題はないのだろうと思います。
ただ、あくまで保険請求の制度上でこういった認識で対応したほうがいい。
ということを覚えていた方がいいでしょう。
【例外】自損事故、加害者でも自賠責(自由診療)を使うことがある
保険会社からの依頼で健保請求をせずに自由診療として対応するケースです。
請求としては…
診療費の算定方法としては、1.2倍の点数で計算し自賠責の書式でレセプトも作成、診断書も同じように作成します。そしていつもどおり、保険会社へ請求を行うのです。
医療機関が行う手順としてはいつもどおりです。
この方法のポイント
医療機関から保険会社へ10割(自費)で請求を行い、保険会社が全額負担するという方法です。健保を通さずに医療機関と保険会社だけで治療費のやり取りを完結させてしまいましょう、という方法です。
なぜ、このような請求方法があるかというと通常であれば、傷害保険は健康保険証を使うことを促すのですが、任意保険会社も保険証を使用する場合は保険者へ連絡したりと手続きが面倒なことが多々ある(と予想される)。
その場合、受診が一回だけとか二回ぐらいの少ない通院で済む場合は、自費で保険会社が支払い、そこで完結させてしまうのです。
ただ…

こんなのもあるよ~程度の認識でよいと思います。
【ひな形】保険証使用時の同意書の作成
事故で保険証を使用する場合はできれば、誓約書も兼ねた同意書を作成し、患者さんにサインをもらうことが望ましいです。
上記でも述べたように、保険証使用のメリット・デメリットを理解していないことが多いので、そういったことを理解してもらうためにも必要かと思います。
内容として注意点が多いので、別で説明文と同意書の書式を用紙しました。参考までに。
患者さんにも言葉で説明するより、文章で説明したほうが理解しやすい部分もあると思います。
せっかくなので活用してもらえれば幸いです。
まとめ
まとめると
- 加害者→健保請求
- 自損事故→健保請求
- 両方とも窓口で一部負担金を患者から徴収する
- 基本的には、自賠責を使えるのは被害者のみ。それ以外はすべて健保請求でOK
といった感じで覚えておけばOKです。
とはいえ、交通事故の状況によって
- 自賠責を使うのか
- 第三者届を出して健保を使うのか
というのは過失割合によっても異なりますし、保険会社や患者本人の意向もあると思いますので詳しく話を聞いて対応するのが良いかと思います。
(自損事故の場合は自賠責は使わない)
保険会社が強気で申しでてきたとしても、医療事務員も交通事故の知識を持ったうえで毅然とした態度で対応できるようにしていきたいですね。
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